ふうん。こう言っちゃ何だが、思っていたよりちゃんとしたお店だ。
結構綺麗だし、装飾が年季入ってるな。この雲とドラゴンが昔ながらの中華屋さんって感じだ。
細い階段降りてったら、いきなり巨大な冷蔵庫が立ちふさがってたからな。どうしようかと思ったぜ。
―…腰痛が突然悪化し、早めに仕事を切り上げさせてもらったものの、これはとても自炊なんかできないと判断した俺は、いつもの店で刀削麺を食って帰ろうとした。あの四川風の突き抜ける辛さで腰の痛みなんか吹っ飛ぶだろうと、痛めた腰を抱えながら小走りで進んだ。
店は閉まっていた。
うかつな小走りでより痛みを増した腰を抱えながら、せめて中華っぽいものが食べたいと、この期に及んで妥協しきれない俺の視界に入ってきたのが、今いる店の階段だった…。
―席に着き、回りを見渡していると他の客が目に入る。
俺の他は…、酒飲んで盛り上がってるサラリーマン。と、大学生風の青年達。こっちは黙々と飯食ってるな。
これ位が丁度いいぜ。混んでるのも鬱陶しいし、初めて入った店で客が俺だけってのはあんまりにもチャレンジャブルだ。
ああ、注文は…。これ、牛肉の四川ピリ辛なんとか定食。大盛で。
今注文を取りに来た人が店主か?
しかし胡散臭いおっさんだな。髪型はVシネみたいだし、ありゃコックコートってより白衣だぞ?
でも気さくな人のようだ。他の客にやたら話しかけている。
おばちゃんもいい感じだ。もわっとしたパーマの所謂おばちゃんだ。
―…ふうん。炒め物と、ご飯、スープ、漬け物。
シンプルでいいや、あとこりゃあ杏仁豆腐か?
自家製っぽいな。
まあいいや、とにかく腹が減った。
いただきます。
うん、うまい。どこが四川風なのか解らないが。
しかし全然辛みを感じないのは、きっと僕の舌が辛さに麻痺してるんだろうな。
ご飯大盛が無料なのも晩飯には嬉しい。ちょいとボソボソだが
スープがまた素朴な味だ。少しだけトロッしている。何か昔飲んだことがある味だ。その時はこのスープに入った溶き卵が嫌いだったような…。
さて、例の杏仁豆腐だ、こりゃあまた随分しっかりした杏仁豆腐だ。寒天のような。
スゥッととろける滑らかな杏仁豆腐もいいが、こいつはこいつでなかなか旨いな。
―ごちそうさま。
さて、家に帰る訳だが。別に飯食ったくらいじゃ腰は良くならないな。
電車で座れればいいんだが…。
果たして家まで保つんだろうか?