何事もなく、その公演は始まった。
そして数分後、当たり前の様に一人のお客さんが席を立った。
それを皮切りに、公演が進むにつれお客さんが一人ずつ帰っていく。
公演が終わったとき、劇場には僅か数人のお客さんしか残っていなかったという。
文にするとたったこれだけの話だが、僕らにとっては半端なホラーよりよっぽど恐ろしい話だ。
コレは以前共演した役者さんから聞いた話だ。恐ろしいほどにつまらない内容だったそうだが…。
僅か数分で「帰ろう」と思わせる。オープニングでお客さんの心を掴む、というのは理想とするところだが、その全く逆の現象が起こってしまったわけだ。
一体如何な内容であったというのか?
次々と客席が空いていく中、役者さんたちは何を思って演じていたのだろうか。
僕も今までにお客さんがほとんどいない公演、というのは経験しているが、ほとんどが帰ってしまった公演というのは幸い体験せずにすんでいる。
出来れば今後も経験せずに済ませたいが。
話は変わるが、イベントや舞台を観にいった事がある方は、「気分の悪くなった方は係員にお申し付け下さい」というアナウンスを聞いたことがあると思う。
実際にそういうケースにであったことはあるだろうか。実は僕は一度だけあるのだ。
よりによって僕自身が観劇中に体調が悪くなり、会場を抜け出し、そしてトイレで気を失っていた。
公演後、知り合いの役者さんが心配して僕を探しに来てくれて救出されたが…。
おかげで僕はそのお話の結末を知らないのだ。
というか、その公演の記憶自体が曖昧になっていて、一体何をしにいったのやら、という感じだ。
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